続・教員・公務員のための「人生100年・第二の人生を豊かにする10話シリーズ」

「月の赤字」に怯える日々
退職して半年。佐藤先生(仮名・61歳)は、毎月の家計簿を見てため息をついていました。
「今月も、年金だけじゃ足りない…」
年金:月22万円
生活費:月28万円
不足:月6万円
毎月6万円ずつ、貯金から補填。年間72万円の赤字。
「このままでは、10年で700万円以上減ってしまう…」
不安で眠れない夜が続きました。
「月単位」の罠
佐藤先生の悩みは、多くの教員・公務員OBに共通しています。
でも、実はこの不安、間違った見方から生まれているのです。
私は佐藤先生に尋ねました。
「佐藤さん、『赤字』とおっしゃいますが、本当に赤字ですか?」
佐藤先生は戸惑った表情で答えました。
「だって、毎月6万円足りないんですよ?」
「では、年間で考えてみましょう。収入と支出を、すべて洗い出してみませんか?」
そして、一緒に作ったのが、年間キャッシュフロー表でした。

佐藤先生の年間収支(退職1年目)
【収入】
・年金:22万円×12ヶ月=264万円
・ボーナス月の年金上乗せ:なし
・配当・分配金(運用資金2,000万円から):年80万円
・公民館講師謝礼:月3万円×12ヶ月=36万円
合計:380万円
【支出】
・月々の生活費:28万円×12ヶ月=336万円
・特別費(旅行・冠婚葬祭・家電買替):年40万円
・医療費・介護保険等:年20万円
合計:396万円
差額:−16万円
「あれ? 年間で見ると、赤字はたった16万円?」
佐藤先生は驚きました。
「月で見ると72万円の赤字だと思っていたのに…」
「見えない収入」を可視化する
なぜ、こんなに差が出たのか?
理由は、「見えない収入」を計算していなかったからです。
佐藤先生は、2,000万円を株式中心のアクティブファンドで運用しています。
年4%のリターンがあれば、年80万円です。
これを、すべて再投資していると思っていました。
「でも、これは『収入』ですよね? 使ってもいいお金ですよね?」
「はい、その通りです。運用益の一部を生活費に回しても、運用資産は減りません」
さらに、公民館講師の謝礼月3万円も、「小遣い」として計算外にしていました。
でも、これも立派な収入です。
すべてを足すと、実際の赤字はわずか16万円。
この16万円は、楽しみ資金500万円から年50万円使う予定の範囲内です。
「つまり、私は赤字ではないんですね?」
佐藤先生の表情が、パッと明るくなりました。

「年単位」で考える4つのステップ
では、どうすれば佐藤先生のような**「年間キャッシュフロー経営」**ができるのか?
4つのステップをご紹介します。
ステップ①:すべての収入を洗い出す
年金だけではありません。
・年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)
・企業年金・個人年金
・運用益(配当・分配金・売却益)
・副業・講師謝礼
・不動産収入
・その他
すべてを、年間ベースで書き出します。
ステップ②:支出を4区分に分ける
月々の生活費だけを見ていては、不十分です。
①月々の生活費(固定)
食費・光熱費・通信費・日用品など。月28万円なら年336万円。
②特別費(変動)
旅行・冠婚葬祭・家電買替・車検・固定資産税など。年40万円程度。
③医療・介護費(準固定)
健康保険料・介護保険料・医療費。年20万円程度。
④楽しみ費(計画)
趣味・学び・孫へのプレゼント。年50万円。
この4区分で整理すると、本当に必要な金額が見えてきます。
ステップ③:年間収支を計算する
収入合計−支出合計=年間収支
プラスなら、資産は増えています。
マイナスでも、楽しみ資金の範囲内なら問題ありません。
ステップ④:5年・10年先をシミュレーションする
年間収支がわかったら、次は未来予測です。
5年後、10年後、運用資産はどうなっているか?
年金額は? 生活費は?
これをエクセルやシミュレーションツールで計算します。
すると、**「何歳まで、資産が持つか」**が見えてきます。
佐藤先生の10年後シミュレーション
佐藤先生の場合、こうなりました。
【前提】
・運用資金2,000万円を年5%で運用
・毎年80万円を生活費に充当
・楽しみ資金500万円から年50万円使う
【10年後(71歳時点)】
・運用資金:2,100万円(運用益再投資分で微増)
・楽しみ資金:0円(使い切り)
・生活防衛資金:500万円(そのまま)
合計:2,600万円
つまり、10年間で資産は3,000万円→2,600万円。
減少は400万円のみ。
「あれ? 思ったより減っていない…」
そうなのです。運用しながら使えば、資産は大きく減らないのです。
さらに、71歳以降は楽しみ資金を使い切っているので、運用資産からの取り崩しペースを落とせます。
80歳時点でも、1,800万円以上残る計算です。
「これなら、安心して使えます」
佐藤先生は、心から笑顔になりました。
「お金の経営者」という生き方
この年間キャッシュフロー経営、実は企業経営と同じです。
企業は、月次決算ではなく、年次決算で経営を判断します。
個人も同じです。
月々の収支に一喜一憂するのではなく、年間で黒字か赤字かを見る。
そして、5年後、10年後を見据えて、計画的に資産を配分する。
これが、**「お金の経営者」**としての生き方なのです。
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その通りです。
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次回予告
第5話「お金で失敗しないための”信頼できる専門家”の見分け方」
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