続・教員・公務員のための「人生100年・第二の人生を豊かにする10話シリーズ」

90歳の後悔
「もっと旅行に行けばよかった…」
92歳で亡くなった元校長先生のご遺族から、こんな話を聞きました。
その先生は、退職金と年金で3,500万円以上の資産を築き、質素倹約を貫いた方でした。
「父は、『老後のために』と言って、ほとんどお金を使いませんでした。旅行に誘っても、『まだ元気だから、いつでも行ける』と」
でも、85歳を過ぎたころから、体力が衰え始めました。
90歳のとき、ふと言ったそうです。
「もっと元気なうちに、いろんなところへ行けばよかったな」
そして、3,000万円以上の資産を残して、旅立たれました。

“使わない”リスクという盲点
私たちは、「お金を失うリスク」については敏感です。
でも、**「お金を使わないリスク」**については、驚くほど無頓着です。
人生100年時代。確かに長生きリスクはあります。
でも同時に、**「やりたいことができる時間は、思ったより短い」**という現実があります。
60歳で退職して、75歳まで。この15年が、「アクティブシニア」と呼ばれる期間です。
旅行も、趣味も、学びも、この15年が勝負なのです。
75歳を過ぎると、体力・気力ともに、徐々に衰えてきます。
つまり、「使えるお金」があっても、「使える時間」には限りがあるのです。
田中先生が見つけた「使う投資」
前回、田中先生は資産を3つに分けました。
生活防衛資金500万円、長期運用資金2,000万円、そして楽しみ資金500万円。
この楽しみ資金500万円を、どう使うか。
田中先生は、こんな計画を立てました。
10年間の「人生投資プラン」
年50万円×10年=500万円
この50万円を、4つの用途に配分しました。
①旅行:年20万円
妻と年2回、国内旅行。5年に1度は海外も。
②趣味:年15万円
写真が趣味の田中先生。新しいカメラレンズ、写真教室、写真展巡り。
③学び:年10万円
地域の歴史を学ぶ講座、オンライン大学、読書。
④孫・家族:年5万円
誕生日プレゼント、家族旅行の援助、記念日のお祝い。
「これなら、毎年ワクワクしながら生きられます」
田中先生の笑顔が、すべてを物語っていました。
「使う投資」という新しい視点

ここで、投資の概念を変えましょう。
従来、投資とは「お金を増やすこと」でした。
でも、人生後半の投資は、**「お金を人生に変えること」**なのです。
旅行に20万円使う。これは「消費」ではなく、**「思い出への投資」**です。
趣味に15万円使う。これは「浪費」ではなく、**「生きがいへの投資」**です。
学びに10万円使う。これは「支出」ではなく、**「成長への投資」**です。
そして、これらの投資の「リターン」は何か?
幸福感、充実感、人生の満足度です。
これこそが、人生後半における最高のリターンなのです。
お金の「出口戦略」が幸福度を決める
投資の世界では、「入口(買い時)」と「出口(売り時)」が重要だと言われます。
でも、人生における「出口戦略」とは、どう使うかです。
多くの方が、「入口戦略」だけに熱心です。
「どの商品に投資するか」「どう増やすか」
でも、「どう使うか」を考えていないのです。
だから、90歳になって「使えばよかった」と後悔する。
IFAとして、私が最も大切にしているのは、この出口戦略です。
出口戦略の3原則
原則①:使う時期を決める
「いつか」ではなく、「65歳までに」「70歳までに」と具体的に。
原則②:使う目的を決める
「なんとなく」ではなく、「この旅行のため」「この学びのため」と明確に。
原則③:使う金額を決める
「余ったら」ではなく、「年50万円」と先に確保する。
この3つが決まると、お金は「ただの数字」から「人生の道具」に変わります。
寄付という”最高の使い方”
田中先生は、75歳のときに、こんな決断をしました。
「10年間、自分のために使った500万円。次の10年は、社会のために使いたい」
年金と運用資金だけで十分生活できるようになった田中先生は、新たな楽しみ資金500万円を、**「社会への投資」**に使うことにしたのです。
地域の子どもたちへの奨学金、母校への寄付、災害支援…
「お金を使うことで、社会とつながれる。こんなに嬉しいことはありません」
寄付は、税制上のメリットもあります。
認定NPOや自治体への寄付は、所得控除の対象になります。
でも、それ以上に大きいのは、心の豊かさです。
「誰かの役に立てている」
この実感こそ、人生後半の最高の財産なのです。
使うための勇気を持つ
「でも、やっぱり使うのが怖いんです…」
多くの方が、そう言われます。
その気持ち、とてもよくわかります。
だからこそ、第2話でお伝えした**「3つの資産」**が重要なのです。
生活防衛資金500万円がある。
長期運用資金が、運用しながら支えてくれる。
この2つがあるからこそ、楽しみ資金は安心して使えるのです。
「使う」ことは、勇気がいります。
でも、「使わない後悔」は、一生消えません。

人生の後半戦こそ、出口戦略を
次回の第4話では、**「人生後半のキャッシュフロー経営」**についてお話しします。
年金・運用益・楽しみ資金をどう組み合わせ、年単位で収支を設計するか。
教員・公務員OBならではの、「お金の経営者」としての生き方をご紹介します。
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次回予告
第4話「人生後半の”キャッシュフロー経営”」
〜月単位ではなく年単位で考える、新しい家計設計〜
教員・公務員OBに多い”年金+貯蓄”の一本線家計を再設計。
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