第8話「”守る”ための分散 ― 通貨・地域・思想でリスクを分ける」

教員・公務員のための「人生100年・資産寿命を延ばす10話シリーズ

「卵を一つのカゴに盛るな」― 投資の格言が教えること

「分散投資が大切」――誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。

しかし、“何を”分散すればいいのか、正しく理解している人は意外と少ないのです。

多くの方は、「日本株と外国株に分ける」「株式と債券に分ける」という程度の認識です。確かに、それも分散の一つですが、退職後の資産を本当に守るためには、もっと深い分散が必要です。

特に重要なのが:

  1. 通貨の分散 ― 円だけに依存しない
  2. 地域の分散 ― 日本だけでなく世界全体に投資
  3. 運用哲学の分散 ― 複数の運用会社の思想に分散

この3つを理解し、実践することが、資産寿命を延ばす最強の盾になります。

円安・インフレ時代における”通貨分散”の重要性

2024年、1ドル=150円を超える円安が進行しました。2020年には1ドル=105円前後だったことを考えると、わずか4年で約43%も円の価値が下落したことになります。

これが意味することは何でしょうか?

もし、あなたが退職金2,000万円をすべて円建ての定期預金に預けていたら、ドル換算では約1,400万ドル相当(2020年時点)から約1,000万ドル相当(2024年時点)に目減りしているのです。

つまり、円だけで資産を持つことは、それ自体がリスクなのです。

通貨分散の基本

通貨分散とは、円だけでなく、ドル、ユーロ、ポンドなど、複数の通貨建ての資産を持つことです。

具体的には:

  • 米ドル建て資産:米国株式、米国債券
  • ユーロ建て資産:欧州株式、欧州債券
  • 新興国通貨建て資産:新興国株式

これらを組み合わせることで、円安になっても、他の通貨が補ってくれるという効果が得られます。

円安がもたらすメリット

円安は悪いことばかりではありません。海外資産を持っていれば、円安は”追い風”になります。

例えば、米国株式に100万円投資していた場合:

  • 2020年(1ドル=105円):約9,523ドル
  • 2024年(1ドル=150円):同じ9,523ドルを円換算すると約143万円

株価が変わらなくても、円安だけで43%の含み益が出ます。

これが、通貨分散の力です。

「日本・米国・欧州・新興国」ではなく「運用哲学」で分ける

多くの投資信託は、「日本株式30%、米国株式30%、欧州株式20%、新興国株式20%」といった地域分散を謳っています。

確かに、地域を分散することは重要ですが、それだけでは不十分です。

なぜなら、どの地域を選んでも、同じような銘柄を買っている可能性があるからです。

例えば:

  • 日本株式ファンド → トヨタ、ソニー、任天堂
  • 米国株式ファンド → アップル、マイクロソフト、アマゾン
  • 欧州株式ファンド → LVMH、ネスレ、ASML

これらはすべて、「時価総額が大きい企業」を機械的に買っているだけです。運用会社の思想や哲学が反映されていません。

本当の分散とは、「どの地域か」ではなく、「どんな哲学で選ばれているか」で分けることです。

世界株式アクティブファンドを選ぶ際の3つの視点

退職金の一部をアクティブファンドで運用する場合、次の3つの視点で選びましょう。

視点1:運用哲学(理念)

質問すべきこと:

  • このファンドは、どんな基準で企業を選んでいるのか?
  • 短期の利益を追うのか、長期の成長を見据えるのか?
  • 市場の流れに乗るのか、逆張りをするのか?

例:コムジェストの場合

  • 哲学:「クオリティ・グロース」
  • 基準:利益成長率が年10%以上見込める企業のみ
  • 姿勢:短期の株価変動は無視し、5年・10年先を見据える

このように、明確な哲学があるファンドを選ぶことが重要です。

視点2:組入企業の透明性

質問すべきこと:

  • 組入企業の上位10社は明示されているか?
  • なぜその企業を選んだのか、説明があるか?
  • 定期的にレポートが公開されているか?

優れたアクティブファンドは、組入企業とその理由を明確に説明しています。

例えば、コムジェストの月次レポートには:

  • 組入上位10銘柄の一覧
  • なぜその企業が「クオリティ・グロース」に該当するのか
  • 最近の市場動向とファンドの方針

こうした透明性が、信頼できるファンドの証です。

視点3:長期視点の継続性

質問すべきこと:

  • ファンドマネージャーは頻繁に変わっていないか?
  • 過去10年、20年の運用実績はどうか?
  • 市場が下落したときも、哲学を貫いてきたか?

優れたファンドは、短期の成績に一喜一憂せず、哲学を貫き続けます

例えば、キャピタル・グループの「キャピタル世界株式ファンド」は、1930年代から80年以上にわたり運用を続けています。リーマンショックやコロナショックを経験しても、運用哲学を変えていません。

こうした”継続性”が、長期投資家にとって最も重要な安心材料です。

運用会社の思想の分散こそ、資産寿命を守る最強の盾

ここまで読んで、「結局、どのファンドを選べばいいの?」と思われるかもしれません。

答えは、「一つに絞らない」です。

推奨:3つの運用哲学に分散

退職金の運用部分(例:800万円)を、3つの異なる哲学を持つファンドに分散します。

例1:質重視型(コムジェスト型)

  • 金額:300万円
  • 哲学:利益成長が持続する優良企業のみに投資
  • 特徴:市場が下落しても、質の高い企業を長期保有

例2:バランス型(キャピタル・グループ型)

  • 金額:300万円
  • 哲学:複数のマネージャーが独自の視点で分散投資
  • 特徴:偏りが少なく、安定したリターンを目指す

例3:成長重視型(ベイリー・ギフォード型)

  • 金額:200万円
  • 哲学:イノベーション企業に集中投資
  • 特徴:リスクは高いが、大きな成長も狙える

この組み合わせにより:

  • 市場が好調なときは、成長重視型が利益を出す
  • 市場が下落したときは、質重視型が損失を抑える
  • バランス型が全体を安定させる

これが、運用哲学の分散による”最強の盾”です。

50代の教員・公務員へ ― 今から分散の感覚を養う

50代の方は、まだ退職金を受け取っていませんが、今からiDeCoやNISAで分散投資の感覚を養いましょう

推奨配分例(月5万円の場合)

  • iDeCo(月12,000円)
  • インデックスファンド:6,000円
  • アクティブファンド(質重視型):6,000円
  • NISA(月38,000円)
  • アクティブファンド(成長重視型):38,000円

こうして、複数のファンドを持つことで、運用哲学の違いを体感できます。

60代で退職金を受け取った方へ ― 今すぐ分散を

既に退職金を受け取った方は、今すぐ分散を実行しましょう。

推奨配分例(退職金2,000万円の場合)

  • 安全資産(定期預金・普通預金):600万円(30%)
  • インデックスファンド:400万円(20%)
  • アクティブファンド:1000万円(50%)

この配分により、リスクを抑えながら、成長も狙える資産構成が完成します。

既に退職されて数年経つ方へ ― 今からでもリバランス

「もう定期預金に全額入れてしまった」「インデックスファンド一本で運用している」

そんな方も、今からリバランス(配分調整)を行うことで、分散効果を得られます

例:定期預金1,500万円→分散配分

  • 定期預金:700万円(残す)
  • インデックスファンド:500万円(新規購入)
  • アクティブファンド:300万円(新規購入)
  • 質重視型:150万円
  • バランス型:100万円
  • 成長重視型:50万円

今からでも遅くありません。

まとめ ― 分散は”守り”の基本

分散投資は、「リスクを取る」ことではなく、「リスクを分ける」ことです。

  • 通貨を分散して、円安リスクを減らす
  • 地域を分散して、一国リスクを減らす
  • 運用哲学を分散して、一つの投資スタイルへの依存を減らす

これらの分散が、退職後の資産を守る”最強の盾”になります。

次回は、「金融リテラシーが”最大の年金”になる」をテーマに、学び続けることの大切さをお伝えします。


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■昭和42年2月13日生 ■出身:群馬県伊勢崎市 ■住まい:群馬県高崎市 ■趣味:Audi A5でのドライブ・映画鑑賞・都市伝説・クレー射撃・狩猟 ■保有資格 ・証券外務員一種 ・投資診断士 ・相続診断士 ・二級ファイナンシャルプランニング技能士 ・AFP(日本ファイナンシャル・プランナー協会) ・福祉住環境コーディネーター