第7話「お金を”見える化”する ― 老後キャッシュフローの設計術」

教員・公務員のための「人生100年・資産寿命を延ばす10話シリーズ

「なんとなく不安」を「具体的な安心」に変える

「老後のお金、本当に足りるのだろうか…」

漠然とした不安を抱えている方は少なくありません。しかし、その不安の正体は何でしょうか。

  • いくら必要かわからない
  • 今の資産で何年もつかわからない
  • 医療費や介護費用がどのくらいかかるかわからない

つまり、“わからない”から不安なのです。

逆に言えば、数字を見える化すれば、不安は解消されます。

老後の資産設計で最も大切なのは、「どう運用するか」の前に、「いくら必要で、いくらあるのか」を正確に把握することです。

年金・貯金・運用の収入源を一覧化する

まず、老後の「収入源」を整理しましょう。

あなたの老後収入源チェックリスト

1. 公的年金(共済年金)

  • 夫の年金:月_万円
  • 妻の年金:月_万円
  • 合計:月万円(年万円)

2. iDeCo・企業型DC

  • 積立総額:_万円
  • 受け取り方:一時金 / 年金 / 併用
  • 年間受取額:_万円(年金形式の場合)

3. NISA

  • 現在の評価額:_万円
  • 年間取り崩し予定額:_万円

4. 退職金

  • 退職金総額:_万円
  • 安全資産(定期預金など):_万円
  • 運用資産(投資信託など):_万円

5. その他の収入

  • 再雇用・パート収入:月_万円
  • 不動産収入:月_万円
  • その他:月_万円

これらを一覧化することで、「自分には何があるのか」が明確になります。

生活費・医療費・介護費など”支出の寿命”を可視化

次に、「支出」を整理します。

老後の支出項目と目安

基本生活費(65〜74歳)

  • 食費:月_万円
  • 光熱費:月_万円
  • 通信費:月_万円
  • 保険料(生命保険・医療保険):月_万円
  • 交際費・趣味:月_万円
  • 被服費・日用品:月_万円
  • 住居費(持ち家なら固定資産税・修繕費):月_万円
  • 合計:月万円(年万円)

総務省の家計調査によれば、高齢夫婦無職世帯の平均支出は月約26万円です。

医療費(65〜74歳)

  • 通院・薬代:月_万円
  • 人間ドック・検診:年_万円

高齢になるほど医療費は増えます。70代後半からは月2〜3万円が一般的です。

後期高齢期の支出(75歳以降)

  • 基本生活費:月_万円(少し減少)
  • 医療費:月_万円(増加)
  • 介護費用(施設入居の場合):月_万円

在宅介護なら月5〜10万円、施設入居なら月15〜25万円が目安です。

臨時支出

  • 家のリフォーム:_万円
  • 車の買い替え:_万円
  • 子ども・孫への援助:_万円
  • 葬儀費用:_万円

90歳時点の残高シミュレーション

収入と支出を整理したら、次は「90歳時点で資産がいくら残っているか」をシミュレーションしてみましょう。

シミュレーション例:Aさん夫婦(65歳)

収入

  • 年金:月20万円(年240万円)
  • 退職金運用(年利3%、年80万円取り崩し)
  • iDeCo年金受取:年20万円(75歳まで)
  • NISA取り崩し:年30万円(75歳以降)

支出

  • 65〜74歳:月24万円(年288万円)
  • 75〜84歳:月26万円(年312万円)
  • 85〜90歳:月28万円(年336万円)

収支計算

65〜74歳(10年間)

  • 年間収入:240万円(年金)+80万円(退職金)+20万円(iDeCo)=340万円
  • 年間支出:288万円
  • 年間収支:+52万円
  • 10年間の累積:+520万円

75〜84歳(10年間)

  • 年間収入:240万円(年金)+80万円(退職金)+30万円(NISA)=350万円
  • 年間支出:312万円
  • 年間収支:+38万円
  • 10年間の累積:+380万円

85〜90歳(5年間)

  • 年間収入:240万円(年金)+80万円(退職金)=320万円
  • 年間支出:336万円
  • 年間収支:-16万円
  • 5年間の累積:-80万円

90歳時点の退職金残高

  • 初期資産:2,000万円
  • 25年間の取り崩し総額:2,000万円
  • 25年間の運用益(年利3%):約600万円
  • 残高:約600万円

結果:90歳時点でも約600万円が残る

このように、数字で見える化すれば、「足りるのか」「足りないのか」が明確になります。

「数字を見て安心する」ための人生設計表

シミュレーションをさらに詳しく行うために、人生設計表(ライフプランシート)を作成しましょう。

人生設計表の作成手順

ステップ1:年齢軸を作る
65歳から100歳まで、5年刻みで年齢軸を作ります。

ステップ2:収入を記入
各年齢での年金、iDeCo、NISA、退職金取り崩し額を記入します。

ステップ3:支出を記入
基本生活費、医療費、介護費用、臨時支出を記入します。

ステップ4:収支を計算
各年齢での収支(収入-支出)を計算します。

ステップ5:資産残高を計算
毎年の収支を累積し、資産残高を計算します。

ステップ6:グラフ化する
資産残高をグラフにして、視覚的に把握します。

人生設計表のメリット

  • “足りない”が明確になる
    何歳でいくら不足するかがわかれば、対策を立てられます。
  • “余裕がある”ことがわかる
    意外と資産が残ることがわかれば、今を楽しむこともできます。
  • 運用戦略が立てやすい
    いつまでにいくら必要かがわかれば、適切な運用配分ができます。

50代の教員・公務員へ ― 今からシミュレーションを

50代の方は、退職金額や年金額が確定していないかもしれませんが、概算でもシミュレーションすることが大切です。

  1. 退職金の概算を調べる
    勤務先の退職金規程を確認し、退職時期ごとの金額を把握します。
  2. 年金額を試算する
    「ねんきんネット」で、将来の年金額を確認します。
  3. 生活費を見積もる
    現在の生活費を基準に、退職後の支出を予測します。
  4. シミュレーションツールを使う
    金融機関のWebサイトや、FPの無料相談でシミュレーションしてもらいましょう。

今から10年間、毎年シミュレーションを更新すれば、退職時には完璧な設計図ができあがります。

60代で退職を迎えた方へ ― 今すぐ現状を把握する

退職金を受け取ったら、すぐに現状を把握しましょう。

  1. 全資産を一覧化
    預金、投資信託、iDeCo、NISAなど、すべての資産を一覧にします。
  2. 年金額を確認
    年金事務所で正確な年金額を確認します。
  3. 月々の生活費を記録
    最初の3ヶ月は、家計簿をつけて実際の支出を把握します。
  4. 90歳までのシミュレーション
    収入と支出を基に、90歳までの資産推移をシミュレーションします。

既に退職されて数年経つ方へ ― 今からでも軌道修正

「もう退職して5年、10年経ってしまった」

そんな方も、今からでも遅くありません

  1. 現時点の資産残高を確認
    預金、投資信託など、今いくらあるかを正確に把握します。
  2. 過去5年の支出を振り返る
    毎年いくら使っているかを確認します。
  3. 残りの人生をシミュレーション
    現在の年齢から100歳までの収支をシミュレーションします。
  4. 不足があれば対策を立てる
    支出を減らす、運用比率を上げる、働き続けるなど、具体的な対策を検討します。

まとめ ― 見える化すれば、不安は消える

「老後のお金が不安」という漠然とした気持ちは、数字を見える化すれば、具体的な安心に変わります

  • 収入源を一覧化する
  • 支出を項目別に整理する
  • 90歳時点の資産残高をシミュレーションする
  • 人生設計表を作成し、毎年更新する

数字で把握すれば、”何をすべきか”が明確になります。

次回は、「”守る”ための分散 ― 通貨・地域・思想でリスクを分ける」をテーマに、より安全な資産運用の考え方をお伝えします。


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■昭和42年2月13日生 ■出身:群馬県伊勢崎市 ■住まい:群馬県高崎市 ■趣味:Audi A5でのドライブ・映画鑑賞・都市伝説・クレー射撃・狩猟 ■保有資格 ・証券外務員一種 ・投資診断士 ・相続診断士 ・二級ファイナンシャルプランニング技能士 ・AFP(日本ファイナンシャル・プランナー協会) ・福祉住環境コーディネーター