教員・公務員のための「人生100年・資産寿命を延ばす10話シリーズ

はじめに ― あなたの”安心”は、本当に安心ですか?
「私には共済年金があるから大丈夫」
退職を目前に控えた先生方、あるいは既に退職された元教員・公務員の皆さま。長年、この言葉を心の支えにしてこられたのではないでしょうか。
確かに、民間企業に比べて手厚いとされてきた共済年金。安定した退職金。「公務員は老後も安心」――それは、私たちが信じ、周囲からも言われ続けてきた”常識”でした。
しかし、今日、その常識に大きな亀裂が入り始めています。
あなたの預金通帳を開いてください。10年前、20年前と比べて、お金の価値は変わっていませんか? スーパーでの買い物、光熱費、医療費。同じ金額で買えるものが、確実に減っていることに気づかれているはずです。
これが、人生100年時代の現実です。

退職金と年金、本当の”減少カーブ”
退職金の実態
公務員の退職金は減少傾向にあります。2003年度には約2,800万円だった国家公務員の退職手当は、2023年度には約2,300万円程度まで減少しています。地方公務員や教員も同様の傾向です。
さらに重要なのは、この退職金をそのまま銀行に預けておくことのリスクです。
現在の定期預金金利は0.002%程度。1,000万円を10年間預けても、利息はわずか2,000円です。一方、物価上昇率が年2%なら、10年後にはあなたの1,000万円の実質的な価値は約820万円に目減りします。
つまり、何もしないでいることが、最大のリスクになる時代なのです。
年金受給額の現実
厚生年金(旧共済年金を含む)の受給額も、実質的には減少しています。
夫婦2人のモデル世帯(夫が厚生年金加入、妻が専業主婦)で月額約22万円。しかし、総務省の家計調査によれば、高齢夫婦無職世帯の平均支出は月約26万円です。
毎月4万円の赤字。年間48万円。25年間で1,200万円の不足となります。
さらに、65歳から年金を受け取るまでの空白期間があります。60歳で定年退職し、再任用で働いたとしても、収入は大幅に減少します。この5年間の生活費をどう確保するか――多くの方が退職金から取り崩すことになります。
月26万円×12ヶ月×5年=1,560万円
これだけで、退職金の大半が消えてしまう計算になります。
「安定」と「安心」は違う ― 新しい現実と向き合う
教員・公務員の皆さまは、確かに「安定」した職業に就いてこられました。毎月決まった給与、ボーナス、そして退職金と年金。人生設計が立てやすい環境でした。
しかし、「安定」していたのは”収入”であって、”老後の生活”ではありません。
今、私たちが直面しているのは:
- インフレの加速 ― お金の価値が目減りする時代
- 長寿化 ― 90歳、95歳まで生きることが当たり前になった
- 医療・介護費用の増大 ― 後期高齢者になれば医療費も介護費用も増える
- 年金支給額の実質的減少 ― マクロ経済スライドにより、実質的な年金額は減り続ける
これらは、かつての「安定」だけでは対応できない新しい現実です。
定年延長・再任用の”新しい働き方”とそのギャップ
2023年度から、公務員の定年は段階的に65歳まで引き上げられています。「60歳以降も働けるなら安心では?」と思われるかもしれません。
しかし、60歳以降の給与は現役時代の7割程度に減少します。責任は変わらないのに収入は減る。体力的にも厳しくなる。そんな中で、5年間を過ごすことになります。
働き続けることは素晴らしい選択です。しかし、それだけでは老後資金のギャップを埋められないのが現実です。
ここから始まる、人生100年時代の資産設計
ここまで読んで、不安になられた方もいらっしゃるでしょう。しかし、不安を感じることは、行動を起こす第一歩です。
教員・公務員として長年働いてこられた皆さまには、大きな強みがあります:
- 退職金というまとまった資産 ― これを”どう活かすか”が鍵
- 共済年金という安定した土台 ― これを基盤に上乗せできる
- 学び続ける姿勢 ― 教育に携わってきたからこそ、新しい知識を吸収できる
問題は、退職金や年金の「額」ではありません。それらを”どう活かすか”、どう運用・取り崩していくかという「戦略」の有無なのです。

50代のあなたへ
今から準備を始めれば、まだ十分に間に合います。iDeCoの活用(公務員は月12,000円まで拠出可能)、新NISAでの資産形成、そして退職金の運用計画。これらを組み合わせることで、老後の資産基盤を大きく強化できます。
60歳までの10年間、毎月12,000円をiDeCoで積み立てれば、年3%の運用で約167万円になります。 これに企業型DC(確定拠出年金)を併用すれば、さらに大きな資産を築けます。
60代のあなたへ
退職金を受け取られた方、あるいはこれから受け取られる方。その退職金を「全額定期預金」にしてはいけません。物価上昇に負けない、資産を守り、増やす運用が必要です。
世界では、退職金は”分割で運用・取り崩す”ものです。 日本でも、その考え方が広がり始めています。次回以降の連載で、具体的な方法をお伝えします。
既に退職されたあなたへ
「もう遅い」と思われていませんか? いいえ、そんなことはありません。65歳でも70歳でも、資産運用を始めるのに遅すぎることはありません。
大切なのは、”残りの人生を豊かに生きるために、お金に働いてもらう”という発想です。取り崩しながらも運用を続けることで、資産寿命を延ばすことができます。

まとめ ― 「知る」ことから、すべてが始まる
「安心だと思っていたものが、実は安心ではなかった」――この現実を受け入れることは、決して絶望ではありません。むしろ、新しい人生設計のスタートラインに立つということです。
教員・公務員として、人々に「学ぶこと」の大切さを伝えてこられた皆さま。今度は、ご自身の人生100年時代のために「お金の学び」を始める番です。
次回は、「退職金を”貯金”で終わらせない ― 時間を味方につける資産設計」をテーマに、具体的な運用戦略をお伝えします。
あなたの老後を豊かにするための第一歩は、”知ること”から始まります。
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